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あざらしとペンギンの問題

主に漫画、数値計算、幾何計算、TCS、一鰭旅、水族館、鰭脚類のことを書きます。

何て読むんだこの人?の等式

この人名、何て読むんだ…?と途方に暮れることが時々あります。

読み方に困る名前というのは様々あるのですが、日本人の場合はやはり漢字の読みが問題となるでしょう。例えば、「中田」は「なかた」か「なかだ」かというように読み方にバリエーションがある場合、「艮」のように読むこと自体が難しい場合、はたまた、「小鳥遊」のように「なぞなぞか!」と突っ込みたくなる場合などあります。あるいは、近頃はキラキラネームなどと言って、字面からは到底読めそうにない名前がニュースなどで取り上げられているのを見かけます。ここまで来ると筆者としてはお手上げと言わざるを得ません…ʅ(´◔‸◔`)ʃ

前振りはここまでにしておいて、本題は外国人の名前の読み方で困ることが多いということです。例えば、Edsger Dijkstra という名前を読めるでしょうか?彼の名前は日本では「エドガー・ダイクストラ」と読まれることが多いです。しかし、本来のオランダ語の発音は「エツハー・デイクストラ」に近いです。つまり、普通の読み方は慣例的なもので、何らかの明確な規則に則ったものではないということです。

よくある方法として、名前を英語での発音に合わせて読む場合があります。その便宜としては、英語が世界で多く用いられているラテン文字を用いていること、及び、英語自体が標準的な国際言語として用いられていることが挙げられます。まず、英語に限らず一般的に、他言語で同じ文字を使う場合は、自言語の読み方で読んでしまうことが多いという事情があります。日本でも中国人の名前は日本式の音読みで読むことが普通ですね。同じく英語を使うならば、その中の読みも英語に合わせる方が自然です。それ故に英語圏の名前でなくとも英語の読み方に従うという風潮が存在しているというわけです。

さて、そんな外国の名前の中でも、読みで困らせられることが多いのがフランス系の名前です。著名な例を挙げれば Descartes(デカルト)、D'Alembert(ダランベール)、Dirichlet(ディリクレ)、Brillouin(ブリルアン)、Weil(ヴェイユ)などなど…まずフランス系と判らなければ大幅に見当違いの読み方をしてしまうという問題があります。また、フランス語は英語よりも発音規則が定まっているとは言いますが、それでも例外は結構ありますし、人名の場合は歴史や地域の事情によって表記や発音が揺れることも少なくありません。例えば、Dirichlet は発音規則上も由来上も「ディリシュレ」と読むべき*1ですが、彼は諸事情によってドイツ人であり、名前の Dirichlet がドイツ語ではなぜか「ディリクレー」と読まれたために、日本でも慣例的に「ディリクレ」と読まれています。また、Brillouin は「ブリルヮン」と読むのが原音により忠実なようですが、表記及び発音が一般的でないためか普通は「ブリルアン」と書か/読まれ、また、なぜかは知らないですが「ブリュアン」と書か/読まれることも少なくありません。

他に困るというか違和感があるのは、Chebyshev の読み方です。日本ではほとんどの場面で「チェビシェフ」と読まれています。さて、これはロシア語名であり、本来の表記は Чебышёв です。これをカタカナ表記するならば、「チェブィショーフ」に近い発音になります。何を問題に思うのかと言えば、キリル文字の ё をラテン文字で e と表記しているところです。この ё は「ヨ」と読まれ、ラテン文字表記では yo または jo などとするのが普通です。e の要素は字形以外にはないというわけです。だったらせめて「チェビショフ」と読もうぜ、というのが筆者の言い分です。もっとも、普段は若干「ョ」にかけて発音するだけですが。

詰まるところ人名の読みは慣例が多いので、どうしたものでもないのですねー。

ところで、読み方に困るというのは、そのままずばり、カタカナでの表記に困るということでもあります。なぜなら、カタカナ表記とは音写であり、日本語化した読み方を完全に表現するためです。専門の文脈でよく人名や用語がラテン文字表記*2で書かれ、日本語の文脈では自然であるはずのカタカナに直されないのは、読み方の事情が一つの理由として挙げられるでしょう。一方で、専門用語については訳語が当てられることもありますが、定まった訳語がない状況ではなかなか判断が難しい問題です。専門家同士では日本語の会話の中でさえ、比較的新しい専門用語については訳さずに(カタカナ)英語で読んでしまうことがほとんどです。というわけで、筆者もこのブログにおいて、人名をカタカナにするか、また、専門用語をカタカナにするor訳すか、という問題に常に悩まされているのです。

ここまで来て今回紹介するのは、Touchard の Catalan 数の等式というものです。Touchard はフランスの数学者なので、「トゥシャール」と読むのが近いです。その式とは、前回紹介した Catalan 数

C_n = \frac{1}{n+1}  \left( \begin{matrix} 2n \\ n \end{matrix} \right)

の関係式

f:id:azapen6:20130814023533p:plain

のことです。ただし、記号 \lfloor x \rfloorx の小数部分を切り下げた整数を表します。つまり、上の式の和は 0 \leq k \leq n/2 の範囲で取ります。ちなみに、Catalan 数を二項係数で書くと、

f:id:azapen6:20130814023629p:plain

となります。

さて、この等式、一見すると計算をゴリゴリやれば示せるんじゃないかと思われるのですが、実は全然そんなことはないのですね。現時点で最も単純とされる証明は母関数を用いたもので、まるで天からでも降ってきたような等式を出発点とした、その名の通り天下り的なものです。他にも、組み合わせ的な対応関係を用いた証明が複数知られています。*3

以上、読み方の話でした。

人名の発音を集めたサイト→ http://pronouncenames.com/

*1:r の実際の発音は日本語のラ行に近い音とは限りません。近世以降のフランス語では、喉からタンを出すときのような音(「ガーーーッ、ペッ」の「ー」)で発音されます。ドイツ語での発音もフランス語に準じますが、多くはもっと湿っぽくて、うがいのような音(「ガラガラガラ、ペッ」の「ラ」)で発音されます。(喩えが汚い!)一方で、巻き舌で発音される地域もあるなど、一様ではありません。ここでは便宜上、r の発音をラ行で表しています。

*2:他の文字が元の場合はラテン文字転写

*3:touchard catalan identity で検索するといくつか論文が出てきます。